12年に一回の神事・イザイホウは終りました。
潮が引くように、大勢の人々が島から出て行きます。久高島は元の静かなたたずまいを取り戻します。出会う島人は、みんな決まってホッとしたような笑顔をみせます。厳粛な神事から解きはなたれた安らぎを、覚えていたのでしょう。私たちも、歴史的な素晴らしい時間を共有できた喜びを感じておりました。
新しい年(1967年)を迎えました。
久高島では、すべての行事が陰暦で行われますから、新正月は何もしないのです。
「海へ行こう、泳ごう」
私たちは、心ときめかせて海へと歩き出しました。久高島へ来て、初めて海へ入るのです。しかし、南国沖縄でも正月は結構寒いのです。波も相当荒いのです。私たちは、岩にたたきつけられないよう気をつけながら、おそるおそる元旦の海へ入って行きました…
そんな海岸へ、ドラム缶を担いだ人が現れました。掟神のNさんです。Nさんは、私たちのために即席の風呂を沸かしてくれました。震えながら海から上がってきた私たちは、ドラム缶の風呂に入って温まりました。三ヶ月間、井戸水で体を洗ってきたのですから、久高へ来てはじめての入浴でした。
ドラム缶の風呂に身を沈めながら、私たちは三ヶ月余にわたる心あたたまる島人との交流を思い起こしておりました。
もう別れのときが迫っているのです。 |
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